【このままじゃ死ねない!】わたしの黒歴史はどうなるの?故人のプライバシーについて弁護士に聞いてみた
亡くなった人のLINEやFacebookなどのプライバシーがニュースで公開されているけど、それっていいの!?
ニュースで報道されるような事故や犯罪に巻き込まれて命を落とした場合、かつては故人の卒業アルバムや同級生などへの取材が報じられる程度でした。しかし近年は、故人がインターネット上に残したプライベートな情報を掘り起こされ、事案とは直接関係のないことまで世間の目にさらされているように感じます。
「臓器提供意思カードのように、プライバシー公開表示カードがあったらいいよね」というツイートが、1万人以上のユーザーにシェアされ、今や老い支度としての終活ブームだけではなく、若者のあいだでも注目されている故人プライバシー。
故人の尊厳が失われることはもちろん、残された遺族が困惑し傷ついてしまわないよう、自分がこの世からいなくなった後、誰にも見られたくないプライバシーをどう保護するか?
そんな疑問を解決すべく、今回はプライバシー問題に詳しい、弁護士法人リバーシティ法律事務所弁護士の梅村陽一郎先生に「今、私たちができるプライバシー保護」についてのお話をうかがいました。
東京都板橋区出身。早稲田大学法学部卒業。
千葉県市川市にある弁護士法人リバーシティ法律事務所に所属。千葉商科大学大学院客員教授も務める。知的財産や相続などの案件に携わることが多い。
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故人のプライバシーをニュースで報じる。それって罪にならないの!?
トラブルに巻き込まれて死亡した場合にニュースでSNS情報が晒されることがありますが、そういった報道は罪に問われないんでしょうか?
平時であれば、SNS情報が多くの人に晒されたら「プライバシーの侵害」と言われてもおかしくありませんよね。しかし、事件や世間を賑わせることが起こった場合は、国民からすれば「知る権利」、マスコミからみれば「報道の自由」という権利のほうが強くなるんです。
一般人が社会共同生活を営む上で、我慢 (受忍) できる被害の程度を「受忍限度」と呼びます。裁判所は「受忍限度の範囲内だから我慢しなさい」と言いますが、受忍限度はケースによってバランスが変わるので、なんとも言えないのが実状です。
つまり、細かな規定はないということですか?
そうです。ケースバイケースになります。
裁判では、「受忍限度を超えた、超えていない」いうところが争点になるんです。新聞や週刊誌がいきすぎた報道をしたら、慰謝料を払わないといけない場合もあれば、「それくらい我慢しなさい」と判断される場合もあります。
故人のプライバシーって、法律であまり守られていない印象を受けます
実は憲法には、「プライバシー権」という言葉がないんです。
ただ、憲法13条には幸福追求権というのがありまして、裁判所は「プライバシーというのは、幸福追求の一種でしょう」と解釈しています。したがって、憲法や法律に「プライバシー」という言葉はなくても、裁判所的にはプライバシー権というのを一応認めている、ということになります。法律家たちの間では、プライバシー権はある認識ですでに取り組んでいるんですね。
第三章 国民の権利及び義務
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
日本国憲法より
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html
そもそも、「死んだ後のプライバシーを守る」っていう考えはインターネット普及以前は、気にされている方はそんなにいませんでした。
それが最近では、作家の川端康成のラブレターが一般に公開され、「著名な故人といえども個人的な手紙を公開するのはおかしい」という疑問の声が上がりました。また、芸能人も亡くなるとブログやTwitterが晒されるようになり、「自分のメールやSNSが公開されるのは嫌だなぁ」と、不安な気持ちがネット上でシェアされて、死後のプライバシーを守りたいという意識が高まってきていると思いますね。
亡くなった家族を中傷された場合、マスコミを訴えることは難しくなるんでしょうか?
死んだ人にはプライバシー権がない、というのが前提にあります。
プライバシーは「一身に専属する人格権の一種」、つまりその人限り。だから、亡くなればプライバシーは消えちゃうんです。報道の自由もあるので、悪いか、悪くないかの判断だけで、訴えることは容易ではありませんね。
ただ、亡くなった方にまつわる情報が、嘘・虚偽の報道であれば、名誉毀損罪で告訴することは可能です。
死者は事実を暴露されても、名誉毀損罪で訴えられない!
名誉毀損罪について詳しく教えてください
まず、生きている場合は、嘘のことでも、本当のことでも、他人の名誉を下げると名誉毀損になります。
たとえば前科を持っている人が、罪の償いを終えて、社会に溶け込んで何年も真面目にやっているとしますよね。だけど、その人がふたたび事件を起こしたわけでもないのに、「あいつは昔、泥棒をして刑務所に入っていたことがある」なんてネットに書き込んだりすると、本当のことでも名誉毀損罪に問われます。
ただし死者の場合、本当のことは名誉毀損罪にならない。嘘のことを書いたときにのみ、死者への名誉毀損罪が成立するのです。
名誉毀損の条文には、「毀損された名誉が死者のものである場合には、その事実が客観的に虚偽のものでなければ処罰されない(刑法230条2項)」と定められていて、虚偽の事実を摘示した場合でなければ罰しないとしています。わざわざ「死者」って言っているのは、生きている人は本当のことでも名誉毀損罪が成立することがある、ということなのです。
生きている人のプライバシーがニュースで公開されることもありますよね。メディアは名誉毀損罪に問われないのですか?
公益目的があるマスコミは、本当のことで名誉を毀損するようなこと伝えても、ふつうは名誉毀損罪にならないんですよ。彼らはかなり取材しているだろうし、信ぴょう性も高いので。
ただしプライバシーを取得する際、もしも勝手に他人の家に入ればそれは不法侵入罪ですし、不正にデータを取得したら不正アクセス禁止法に抵触することになりますけどね。
生きている間にできる、プライバシー保護対策って?
「これは家族も見るな」「これはメディアで報道させるな」などと、遺言を残しておくことは可能ですか?
書くことはできますよ。ただ、それを親族の方がちゃんと守ってくれるかは、別の問題です(笑)
「葬儀は身内だけにして欲しい」とか、「みんな仲良くしてね」と同じように、遺言書の中で法的効力が生じる部分じゃないんです。
遺言書というのは、「不動産は妻に、預貯金は長男に……」のように、あくまで財産などの部分で効力があるわけです。あとは、「みんなには黙っていたけど、他に子供がいるので認知をするよ」など、法律が定める事項にしか法的効力が生じません。それ以外のものは道徳的なものにすぎないのです。
では、自分のプライバシーを、信頼できる第三者に遺産として譲渡することはできますか?
譲渡はできないですね。先ほども言ったように、プライバシー権というのは、その人が亡くなれば消滅します。だから、譲渡も相続もないんですよ。
ただ、遺言書にお願いベースとして書いておくのはありだと思います。受け取った人が、「故人の意思を尊重して、誰にも公開しないでおこう」と思ってくれるかもしれません。ペナルティーがないので、守るかどうかは依頼された人次第になってしまいますけどね。
生きている間にできることは、「不要な情報は残さない」ということになるのでしょうか
そうです。日記・メール・プライベートな情報。それらを電子化して、暗号化しておいて、パスワードは誰にも教えないというのがひとつの方法でしょうね。
守るべき情報、守れない情報
梅村弁護士が「これは守っておくべき!」と考えるプライバシー情報ってなんでしょう?
守りたい情報は人それぞれですが、私からお話できるのはIDとパスワードは「しっかり管理しておこう」ということですね。
本来、スマートフォンやパソコンのパスワードロックは、本人だけのIDとパスワードという設計ですよね。にもかかわらず、配偶者や家族にパスワード情報をオープンにされている人が少なくありません。
スマートフォンやパソコンには、漏えいさせてはいけない仕事上の顧客情報、機密事項のやり取りもあると思います。守りたいと思う情報が入っているなら、入れ物の鍵だけはちゃんと掛けておいてほしいな、と思いますね。
逆に、どうやっても守れないプライバシーってありますか?
メールやLINEのやりとりは、誰にも見られないはずですよね。だけど、相手のセキュリティはわからないし、もしかしたらウイルス感染であっさり漏えいしてしまうかもしれない。だから、一度自分が送ったメッセージというのは、漏えい・拡散する可能性がある、という前提で送らないといけないと思います。
メッセージアプリは二人だけのやりとり……と思うけど、そんなわけがない。「漏れる可能性がある」というのを、みんな意識しておくべきですね。
加えて、SNS上に投稿する際も注意が必要です。Facebookに自分の子どもの写真をアップするのは、自分の判断なので良いのですが、そこにお友達が混じっていると、お友達のご両親が怒るなんてこともあり得ます。
自分が良かれと思っていることが、他人も同じ考えかどうかはわからないので、
「プライバシーを気にしている人がいる」ことを忘れないでおくこと。それに加えて、「プライバシーを気にしない人がいる」ということも知っておくべきですね。
これをやったら、あなたも犯罪者に!?
自分が故人の情報を公開する立場にいるとして、「これは絶対にやってはいけない」注意すべきことを教えてください
亡くなった方のプライバシーを書いているつもりが、実は生きている人のプライバシーと絡んでいる場合は要注意ですね。たとえば、「亡くなった○○さんは、今活躍中の△△監督と付き合っていたんです」と、暴露すると、問題が起きる可能性があります。
亡くなった方というよりも、遺族や亡くなった方と関連している方の権利を害さないようにする必要があります。
さいごにもう一度言いますが、いくら亡くなっているといっても嘘の情報を書けば、それは名誉毀損罪です。「うちのお父さんの、あることないことを……。名誉を下げるようなことを書くなんて!」と、遺族に訴えられることになりますので、くれぐれも虚偽の情報をネットに書き込むことはしないようにしましょう。
さいごに
今回の取材で、故人のプライバシーと生きている人のプライバシーの守られ方には大きな違いがあることがわかりました。予想していたものと違っていたと感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ニュースやネットで頻繁に目にする故人たちのプライバシー。自分はもちろん、残された大切な人が悲しい思いをしないためにも、大切な情報は日頃から意識して管理をすること。加えて、IDやパスワードなど情報管理の方法を見直すことも大切ですね。
SNSによっては、死後のアカウント情報の管理や削除のために「追悼アカウント管理」という機能が設けられているものもあります。自分の情報を死後どのように扱ってほしいか、考えてみてはいかがでしょうか。
■私が死んだ場合、アカウントはどうなりますか。|Facebookヘルプセンター
■亡くなった方のInstagramアカウントを報告するにはどうすればよいですか。|Instagramヘルプセンター
1980年代のパソコン黎明期よりコンピュータを愛し、90年代後半のインターネット普及とともにその想いは加速。音楽業界でウェブマガジン編集長を経歴し、現在フリーランスとしてライター、映像編集など多業界で活動中。コンピュータのウィルス感染に加え、実生活では空き巣にやられた経験も持つ。NO SECURITY, NO LIFE.