1. セキュリティにも活用される「AI」、その技術の進化と未来

ケーススタディ【vol.41】

2017.09.07

セキュリティにも活用される「AI」、その技術の進化と未来

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AIという言葉、そして人工知能という意味は、ほとんどの人が知っているのではないでしょうか。AIの概念は、それだけ昔からあるものなのです。最近またAI、そして「機械学習」や「ディープラーニング」という言葉もよく聞くようになりましたが、実は今はAIの第三次ブームなのです。そして、すでに身の回りに多くのAIが存在しており、セキュリティ対策にも活用されています。今回は、AIの歴史と今、そして未来について紹介します。

【目次】
・「AI」のブームは現在が3度目
・AI実現のポイントは「ディープラーニング」
・AIはビジネスやセキュリティの現場にも
・AIで未来はどう変わる?

「AI」のブームは現在が3度目

AIが人工知能を指す言葉であることは、すっかり浸透しているといえます。しかし、すでに身近なところでAIが活躍していることは、意外に知られていないのではないでしょうか。まずはAIの歴史を振り返ってみます。機械に人間のような知能を持たせようという考えは古くからありましたが、AI(Artificial Intelligence)という言葉が最初に登場したのは1956年、アメリカのダートマス大学で開催された人工知能研究者による会議(ダートマス会議)であると言われています。

このダートマス会議以降、1960年代までは盛んにAIが研究されました。この期間は「第一次AIブーム」と呼ばれています。しかし、当時は学説を検証しようにもコンピューター自体の性能に限界があり、AIの研究は下火になります。そして、1980年代に登場した「エキスパートシステム」がきっかけとなり、「第二次AIブーム」が到来します。エキスパートシステムは専門分野に特化したもので、たくさんのデータを覚え込ませることで、さまざまな質問に答えられることを目的としたシステムでした。

エキスパートシステムは、医療分野を中心に教育、技術、金融などの分野で期待されましたが、入力されたデータの意味や関連性をコンピューターが理解できず、質問に対して適切な答えを出すことができませんでした。実用的なものにはならず、再びAIへの熱は冷めていきます。しかし、コンピューターのアルゴリズム(問題を解くための処理方法や考え方)の研究は進み、特にゲーム業界でAIが流行しました。将棋や囲碁、チェス、あるいは格闘ゲームのいわゆる「CPUキャラ」に採用され、一人でも白熱した勝負を楽しめるようになりました。

そして、2013年頃から現在へと続いているのが「第三次AIブーム」です。これを実現したのは、コンピューターのCPUの高性能化、クラウドサービスの発展、そしてスマートフォンの普及です。これらにより本格的なAIがはじまり、すでにAIを活用した複数のサービスが提供されています。

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AIブームの歴史

 

AI実現のポイントは「ディープラーニング」

AIには、いくつかの手法があり、そのうちのひとつが「機械学習」です。機械はコンピューターを指しますので、コンピューターに学習させる手法ということになります。機械学習を説明するのに、よく「猫」が使われます。たとえば、コンピューターを使って大量の写真の中から猫の画像を探す場合、「猫目」や「耳の形」「ヒゲ」などといった猫の特徴をコンピューターに覚えさせます。こうした特徴のことを「特徴量」と呼び、特徴量が多いほど精度が上がります。

しかし、機械学習では特徴量を人間が設定してコンピューターに教えなければなりません。そこで、特徴量もコンピューターに見つけ出させる手法が登場しました。これが「ディープラーニング」です。膨大な猫の写真をコンピューターに分析させることで、コンピューターが特徴量を自分で発見するわけです。CPUの高性能化によって、ディープラーニングを高速で行えるようになったのです。

また、現在では大量の画像が毎日SNSにアップされますので、学習用の画像には事欠きません。これは、SNSをはじめとするクラウドサービスの発展と、スマートフォンの普及により実現したことです。Googleの画像検索が高速で高い精度を実現しているのは、ディープラーニングを活用しているためです。またディープラーニングは、マーケティングにも活用されています。Amazonで商品を見ていると、「この商品を購入した人は、このような商品も見ています」といった商品が表示されます。Amazonには膨大な購入データがありますから、これをディープラーニングで分析することで、商品ごとに購入者の特徴を判断できるのです。

第三次AIブームのAIは、こうした限定された用途でのAI活用を実現しました。特にAI、パソコンやスマートフォンで利用するサービスなどと相性がいいとされています。たとえば、コールセンターの業務をAIに置換え、チャットシステムで対応するケースも増えています。チャットシステムの「LINE」にコールセンターのアカウントを作り、ユーザーからの質問にAIが答えるわけです。LINEといえば、マイクロソフトが開発した「女子高生AI:りんな」も話題になりました。

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AIの手法:ディープラーニングは機械学習(コンピューターを使ったAI)に含まれる

 

AIはビジネスやセキュリティの現場にも

AIのビジネスへの活用として、「RPA(Robotic Process Automation)」も注目を集めています。RPAとは、コンピューターを使ったさまざまな業務をAIが行うというものです。基本的には、マイクロソフトのビジネスソフト「Office」のマクロのようなもので、たとえば帳票の入力や経費計算、顧客情報の登録、あるいは情報の検索などといった業務の手順をRPAに教えることで、人の手間を大幅に削減できます。コンピューターだけでなく、FAXやスキャナなどとも連動できるため、RPAの適用範囲は非常に広いといわれています。

採用においてもAIは効果的です。あらかじめ企業に必要な人材の特徴などをAIに学習させることで、履歴書の内容から行う一次審査をAIに実施させることができます。大量の応募があるような企業では、人の負担を大幅に軽減しつつ、自社に適した人材を高い精度で選び出すことができます。

またAIは、セキュリティにも有効です。セキュリティ対策機器は、膨大なログを分析して危険なものを見つけ出しますが、AIに数カ月ログを読み込ませることで「通常の状態」を学習させます。そうすると、通常とは違う挙動を見つけ出すことができるので、さらにそれが攻撃かどうかをAIに教えていけば、かなりの精度で攻撃を検知できるようになります。実際に、内部犯罪の兆候を見つけるためのAIソリューションも登場しています。

特にメールにおいては、すでにAIを活用した驚異の検出を実現した製品が登場しています。メールにおいても、前述のように「通常の状態」を学習させれば、たとえ企業内や取引先からのメールでも、普段とは異なる時間帯、件名、添付ファイル、文面などを検知できるので、フィッシングメールや標的型攻撃メールの検知に役立ちます。また、最新のマルウェアの傾向を学習させることで、新たに登場した新種や亜種も検知できるようになります。セキュリティ業界においても、AIは非常に期待されている技術なのです。
 

AIで未来はどう変わる?

AIは、ほぼすべての業界で応用できる技術です。たとえば、医療業界ではAIによって病気の兆候を見つけ出し、早期治療を実現できます。また、自動車の自動運転にもAIは欠かせません。たくさんのカメラによって周囲の状況を判断し、的確に運転するには、AIが有効です。自動運転にはGPSやカーナビも重要な要素になりますが、カーナビの渋滞予測や最適なルートの検出にも、すでにAIが活用されています。

今後は、さまざまな業界においてAIの採用が進み、よりよい生活が送れるようになるでしょう。ただし、第三次AIブームで実現しているのは、特定の用途に特化した「特化型AI」です。映画や漫画、小説に登場するようなAI、あるいはドラえもんのような、どんなことにも対応できる「汎用型AI」の登場はもう少し先になると考えられています。

とはいえ、現在でもディープラーニングに「報酬」の概念を与えた「深層強化学習」も進化しています。これは、AIに目的や目標を設定し、それをクリアしたらポイントを与えるような仕組みです。深層強化学習は、人間を破った囲碁ソフトやチェスソフトなどに活用されています。目標を与えることで、AIは何週間も休まずゲームをくり返し行い、どうすればより早く勝てるかを学習していくわけです。

また、ディープラーニングの一種である「ニューラルネットワーク」も、インターネットやクラウドの活用で一般的になってきました。ニューラルネットワークは、人間の脳をシミュレートするものです。人間の脳にはニューロンと呼ばれる神経細胞があり、立体的な網の目のような複雑な構造をしています。これを模して、複数のネットワークを活用して人間のような思考を目指しています。今後は、CPUのさらなる高性能化、Wi-Fiを含む通信ネットワークの高速化、スマートフォンの高性能化によって、AIはさらに進化していくと思われます。

 

yosizawa150-150吉澤亨史(よしざわ こうじ)フリーランスライター
自動車整備士として整備工場やガソリンスタンドで長らく働いた後、IT系フリーランスライターとして独立。ここ15年ほどは情報セキュリティ関連を中心に執筆活動を行っている。ただし、パソコンやハード、ソフト、周辺機器、スマホ、アプリ、サービスなどIT系全般はもちろん、自動車など他業界にも対応。
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