思わずクリックしてしまう「おもしろ」迷惑メールとは?オオアリクイからLINE乗っ取りまで
出会い系サイトへの誘導や、架空請求のきっかけとなる「迷惑メール」は、今も昔も手を変え品を変え、私たちの生活を脅かします。
本来忌むべき存在である迷惑メール。しかし、なかには思わずクリックしてみたくなるような引きのあるタイトル、そして趣きのある文章を書く筆力の高い業者も存在します。
今回は、そんなおもしろ迷惑メールの世界を少し覗いてみましょう。
2006年に新時代を切り開いた名作迷惑メール
おもしろ迷惑メールの世界にも「名作」と呼ぶべきものが存在します。
2006年といえば、携帯電話の番号ポータビリティ制度(MNP)が開始された年。その記念すべき年に、突如彗星のごとく登場し、ネットを騒がせたのがこちらのメールです。衝撃的なタイトル、そして悲哀を帯びた絶妙なストーリー展開が話題となりました。
「主人がオオアリクイに殺されて1年が過ぎました」
いきなりのメール失礼します。
久光さやか、29歳の未亡人です。
お互いのニーズに合致しそうだと思い、連絡してみました。自分のことを少し語ります。
昨年の夏、わけあって主人を亡くしました。
自分は…主人のことを…死ぬまで何も理解していなかったのが
とても悔やまれます。主人はシンガポールに頻繁に旅行に向っていたのですが、
それは遊びの為の旅行ではなかったのです。
収入を得るために、私に内緒であんな危険な出稼ぎをしていたなんて。一年が経過して、ようやく主人の死から立ち直ってきました。
ですが、お恥ずかしい話ですが、毎日の孤独な夜に、
身体の火照りが止まらなくなる時間も増えてきました。主人の残した財産は莫大な額です。
つまり、謝礼は幾らでも出きますので、
私の性欲を満たして欲しいのです。
お返事を頂けましたら、もっと詳しい話をしたいと
考えています。連絡、待っていますね。
メールを開くと、そこに綴られているのは「久光さやか」という29歳未亡人の壮絶な人生。
要約すると、「シンガポールに出稼ぎに行った主人が、いろいろあってオオアリクイに殺された、今は独りで寂しく毎日を過ごしています。金はある」というものです。
おそらくこれは出会い系サイトへの誘導メールでしょうが、このようなサイトで一番ヒキが強いのは、ずばり「エロ」と「カネ」です。つまり、一見やり過ぎているように思えるこのメールは、出会い系迷惑メールの基礎をしっかり踏襲しながらも、凝った設定を持たせることで新しい境地を切り開いているのです。
オオアリクイと双璧を成す名作「私はチンパンジー」
「主人がオオアリクイに殺されて1年が過ぎました」が登場した後、この「突拍子もない設定を持った」おもしろ迷惑メールは、ひとつのジャンルとして定着するほど増加しました。
そして、「オオアリクイ」と並ぶとして、これまた彗星のように華麗に登場したのが、「私はチンパンジーです」と強度のタイトルで迫る迷惑メールでした。
「信じられないかも知れませんが、私はチンパンジーです」
はじめまして。早苗といいます。
キーボード越しで、こうしてメールとして
メッセージを伝えているだけでは
分からないかも知れませんが、私はチンパンジーです。メスのチンパンジーです。 2年に渡る知能訓練を受けて、自分の思考をこうして文章としてアウトプットできるようになりました。
最初、私は自分を人間だと思ってました。
周りにいる、他の人間と同様に。
しかし、様々な知識を得て、自分が他と異なるのを理解し、
そして、チンパンジーであるのを今は知っています。チンパンジーですので、
吉本新喜劇のお笑いぐらいしか、ギャグは理解できません。
人間対象の知能訓練を受けていても、お笑いに関しては、
亜人である大阪人と同レベルに留まっていますのでご了承下さい。人間であるあなたとは、異なる存在です。
しかし、いま、私は、あなたへの興味を止める事ができない。チンパンジーの中で人間に近い私と、
人間でありながらチンパンジーに近いあなたは、とても似ている。わたしがあなたに惹かれたのは、そこに大きな理由があります。
勿論、あなたのルックスが人間よりもチンパンジーに近い事実、
その事も大きいですが。だから、自信を持ってください。
人間界ではブサメンで非モテなあなたでも、
チンパンジー界では、イケメンです。
あなたは、チンパンジー受けする顔です。
喜んでいいんですよ。わたしならあなたをナンパする事が出来ると飼育されてきました。
そしてイケモンキーのあなたに、
私を知って欲しいという気持ちが日増しに強くなってきています。
チンパンジーの私が、人間のあなたに深く、強く、
恋をしているんです。
ここで、私とチャットをする事ができます。
チンパンジーであることを証明できます。
ライブカメラで証明できます。
通常の、顔を映しているだけのチャットではない、
手で入力しているところもカメラで捉えているチャットですので、
本当にチンパンジーであるのを、証明できます。待っています。
あなたと、まずはチャットできることを。
待っています。
特殊な訓練の末、読み書き、チャットまでこなせるほどの進化を遂げた自称チンパンジーの早苗。 そんなわけはないと思いながらも、気にならずにはいられません。読み手の好奇心をくすぐる内容で、巧みにライブチャットに誘います。
ちなみに、「チンパンジーが文章を作成する」という設定は、「無限の猿定理」からヒントを得たと思われます。これは「猿がタイプライターをいつまでもランダムに叩きつづければ、いつかはウィリアム・シェイクスピアの作品を打ち出すように、ランダムに文字列を作り続ければどんな文字列もいつかはできあがる」というものです。
もちろん、実際に猿が文章を打つことはできませんが、まさにセンス無駄遣いウィットに富んだ迷惑メールといえるでしょう。
LINEの「なりすまし」に代表される淡白な迷惑メール
さて、「オオアリクイ」に「チンパンジー」と、設定とテーマが多かった2000年代に比べ、SNSなどの発達により、最近はより簡易なタイプが世の中を飛び交うようになりました。
なかでも大きな話題になったのが、LINEによるなりすましメールです。
他人のアカウントを乗っ取り「何してますか?」といった質問からはじまって、ウェブマネーの購入やパスワードの送信を促したり、「◯◯だけど覚えてる?」と知り合いを装いサイトに誘導してくる手法です。
私のところにも、「ウェブマネーを購入しろ」というLINEのなりすましメールが届いたことがありました。その頃には、なりすましは世間ですっかり話題となっていましたので、すぐにそれと気付くことができました。参考資料として、そのやり取りのスクリーンショットを添付します。
温度差の違いも目をひくところですが、日本語に不慣れなところを見ると、おそらく中国あたりから送信されていたのでしょう。「今の仕事は楽しいか?」「お母さんが泣いてるぞ」と、話の核心に入っていこうとした矢先に先方が退出してしまったのが悔やまれます。
おもしろ迷惑メールは見るだけに。URLクリックはダメ、絶対!
以上、おもしろ迷惑メールを少しだけ紹介させていただきましたが、おもしろがってばかりもいられません。実際に被害に遭った方もいらっしゃいますし、やっていることは立派な犯罪です。
アリクイに夫を殺された資産潤沢な未亡人から愛人契約を希望するメールが来ようと、知能高めのチンパンジーからライブチャットに誘われようと、記載されたURLは絶対にクリックしてはいけません。
また、日々必死に新しいメールのアイディアを練っている方におきましては、せっかくおもしろい文章を打てる才能があるのですから、もっとホワイトな稼業で、人を楽しませていただきたいものですね。
都内在住のグラフィックデザイナー、ライター。30代を迎え、個人情報よりある意味いろんなものの漏えいを防ぐのに必死な今日この頃。
主に映画・音楽からオカルト、SF、酒、苔、不動産投資コラムまで、幅広く、そして若干胡散臭く、日々文章とデザインをお届けしています。